デザインやブランディングを通じて社会に貢献

本宮 亜里 アートディレクター

これまでどんな仕事をされていたのですか。

  • 大学でブランディングの学士課程に在籍中に、スペインの台所調理用品メーカーのレクエ「Lékué」という会社で働き始め、卒業論文のテーマにもしたことが、私がブランディングの分野に身を捧げるきっかけとなりました。レクエは、高齢者や身体に障害がある人が、もっと楽に、より安全に、独り立ちして調理をする手助けが出来ないだろうかという問題意識の下、デザインへの情熱と台所事情の革新を2本の柱としつつ、置き去りにされた人々へも手を差し伸べようとする人間的側面も持ち合わせていました。私がブランディングを勉強し始めた頃は、SNSの浸透によってレクエのような企業が社会に対して大きな影響力を持ち始めていた時期でもあり、人々が企業の動向に注目し追従することは、社会にポジティブな変革をもたらす大きな力である一方、企業は大きな責任を負うことにもなると常日頃考えていました。

  • 卒業論文では、日々の生活における調理をきっかけとしたさらなる想像力、創造力の活用についてや、単なる模倣ではなく一人ひとりが自分なりの生活様式を形成することの可能性について書き、この論文がきっかけとなって卒業後レクエで働くこととなりました。当初は、企業としてのアイデンティティの定義と、国際見本市(フランクフルト、パリ)会場のブースでの出展製品のお客様体験コーナーのデザインなどを受け持ちました。その後、バルセロナのブランディングのコンサルタント会社に転職し、革新と体験の担当として、消費者の経験の重要性を再定義したり、デザイン思考の方法論を用いたクリエイティブワークショップの標準化をデザインしたりしました。

そこからマカイラに転職したきっかけを教えてください。

  • 特にヨーロッパでは、「日本」は「対比の国」として知られており、古き良きもの(歴史と伝統)が、最先端の技術や近代的空間と共存し見事に融合しています。ある分野では高度に進歩している反面、伝統的文化が代々継承されている面も持ち合わせています。コロナ禍の到来と時を同じくして、前の仕事を辞めて日本に移住する決心をしましたが、単なるブランディングやデザインの企業ではなくて、社会への貢献をふまえた業績を目指している企業へ就職したいと考えていました。ブランディングは、社会の流行と人々の行動パターンに強く関連する分野です。近年の市場の目覚ましい変化の中で、消費者は、企業に対し道徳的献身と社会的問題への貢献を求めています。

  • 「意識ある消費の時代」とも呼ばれていますが、消費者は、「買う」という行動によって社会へ何かしらの還元が生じることを望んでいるため、どの企業とならその相互作用が望めるのかを注意深く選択しています。例えば、商品の持続可能性や環境への影響、LGTBI+グループへのサポート、Black Lives Matter のような人種差別反対運動などが挙げられます。帰国後しばらくしてマカイラのクリエイティブ部門である「MAD(Makaira Art&Design)」と出会いました。「マカイラ」とはどのような会社であるかの説明を受けた際、ここは社会貢献の実現可能性に溢れた職場になるだろうと確信しました。

今どのような仕事をされているのですか。

  • MADのクリエイティブ グループにおけるアートディレクターとして、クリエイティブディレクターの監修の下、ビジネスデザインからブランディング、さらに総合的なデザインまで、あらゆるクリエイティブなプロジェクトを手がけています。特定のデザインプロジェクトに対しては、自身のブランディングでの経験をふまえて、私の独自の視点を提案しています。顧客のポートフォリオは多種多様ですが、MADの基本的価値観を重視して、顧客がソーシャルグッズへ関与をするとともに、社会進歩へ貢献できるよう心がけています。

  • 近年のグローバル化とともにブランドの国際化が進んでおり、ブランディングの現象は世界同時的に進化を遂げています。(グローバル化のおかげとも言えますが、) この業界では国家公務員のような「国」という制約がありませんので、私自身が西欧で育んだ視野や思考法を生かし、日本の顧客の方々への要望やプロジェクトに対して、ささやかながらも付加価値を提供することが出来ると信じています。

今後のビジョンについてお聞かせください。

  • 私は、未来について、常に二つの観点(社会が向かっている道と、社会に向かってほしい道)から考えますが、、2つの道に共通するものがあるとすれば、それは、ブランドが社会の進化や行動に与え、今後与える影響力であると考えています。ブランドは、私たちの考え方やアイデンティティを幼い頃から形成し、愛や成功、ジェンダーといった概念について、時には実現不可能な理想を作り出していますが、近年は少しずつ、こうした壁を取り払い、アイデンティティに新しい価値を取り入れ、コア・ブランドそのものを変革しようとしています。例えば、ディズニーは、より多様なキャラクターを取り込み、白人の王子様とお姫様という理想から脱却しようとしていますし、ネットフリックスは、カメレオンのようなブランディングに賭けて、ユーザー一人ひとりの好みや趣向に合わせて、パーソナライズした体験を提供しようとしています。

  • ブランドとは、結局のところ、ストーリーテラーであり、ストーリーのあり方や内容は、社会で生まれる行動やトレンド、ステレオタイプに影響を与えることができます。また、現在はユーザー一人ひとりに対するブランドの超個性化の流れが進んでおり、ユーザー自身がブランドになることで、私たちがブランドを知り、認識するための大衆化されたアイデンティティが完全に置き換えられる、役割分担の転換が進むと思われます。私は、このような変化の導入において、ブランドを支援し、包括的で多様な社会を実現していきたいと考えています。

本宮 亜里 アートディレクター