法務戦略とルール形成戦略のスペシャリストを目指して
安井 裕之 ディレクター
これまでどんな仕事をされていたのですか。
新卒で丸紅に入社し、10年間、法務とコンプライアンスの業務に携わり、国内外の新規事業投資プロジェクトに係る契約交渉や法務リスクの審査、反贈収賄コンプライアンス体制の構築・強化などを担当しました。印象深いのは最後の3年間で取り組んだコンプライアンスの仕事です。丸紅は90年代の新興国におけるインフラ案件受注に絡む外国公務員への贈賄嫌疑で米国司法省から2度にわたって摘発を受けてしまい、コンプライアンス体制を抜本的に強化する必要が生じていました。新設されたコンプライアンス統括部という小さな組織で、国内外の丸紅グループ全体に向けた社内規程の整備やトレーニングの実施などを自ら企画して実行していくのは、大変でしたがとてもやり甲斐がありました。本社だけでなく、米国現地法人や鉄鋼事業会社への出向も含め、様々な組織で働けたことも良い経験になりました。
そこからマカイラに転職したきっかけを教えてください。
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学生時代は法律家を志していたのですが、それは町弁として人の役に立ちたいという想いがあったためです。法科大学院に進学しないという選択をして飛び込んだ企業法務の世界はダイナミックで面白かったですが、困っている誰かの役に立てているという実感はあまり得られませんでした。悶々とする日々を送る中、東日本大震災が起き、社会起業家という存在が自分の目にも止まるようになり、これだと思いました。そこから、ソーシャルセクターに転身したいという明確な方向性を見出し、色々と動いてみたものの、NPOに転職するのは収入ギャップが大きすぎて現実的ではありませんでした。ただ、ソーシャルセクター界隈の人と関わって情報を得たいと思い、非営利向けのスクール事業を週末にお手伝いしながら色んな団体の活動を知るうちに、社会の状況を大きく変えていくためには、政策や世論への働きかけ、アドボカシー活動が重要だと思うに至ったんです。
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その時に、たまたま日経新聞でアドボカシーのコンサルティング会社としてマカイラが載っていたことを思い出し、代表の藤井のツイッターをフォローするようになりました。最初は政治・行政の知識も経験もないので難しいだろうなと思って眺めていたんですが、ある日、法律のバックグラウンドのある人がほしいとツイートしているのを見かけました。これはチャンスがあるかも知れないと思ってコンタクトし、今に至ります。
今どのような仕事をされているのですか。
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情報通信、飲食、モビリティなどの業界のクライアント様向けに、関連する政策のモニタリングや政策提言、政府関係者・業界関係者・NPO・アカデミアなどのステークホルダーとの関係構築といった公共政策活動の戦略立案と実行をサポートさせて頂いています。とりわけ、昨今のデジタルプラットフォームをめぐる政策議論に対し、望ましいルール形成の方向性を様々な関係者と対話しながら提示していくことが重要な役割だと考えています。クライアントの一つであるシェアリングエコノミー協会では公共政策部長という役割を頂き、シェアリングエコノミーの活用推進に向けた政策のあり方について、日々、官公庁・国会議員・事業者などと意見交換を行い、提言活動を展開しています。
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この仕事の面白いところは、目指すべき社会の未来像を構想し、その実現に向けたルール形成の一端を担うことで、社会の前進に主体的に貢献できること、そしてその過程で、これまで存在しなかった先端的な取り組みや議論をしているスタートアップ経営者や有識者などとの刺激的な対話の中に身を置くことができることにあると思います。
今後のビジョンについてお聞かせください。
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できれば弁護士になり、法律家兼パブリックアフェアーズの専門家として、社会変革に挑戦するスタートアップを法務戦略とルール形成戦略の両面からサポートできる存在になりたいと考えています。先日、田坂広志さんが、あるイベントで「使命とは、命を使うと書く。自らの使命は何か、何に命を使うべきかを考えてほしい」というお話をされていたのが印象的でした。私は、二児の父として、次世代が笑って暮らせる社会を残すために命を使いたいと思います。
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その意味で、世界中で深刻化する自然災害、ロシアのウクライナ侵攻、中国の覇権主義的な動きなど、昨今の世界情勢は不安要素で溢れ返っています。弁護士になれるかはさておき、今後は、気候変動、食糧・エネルギー安全保障、人口減少・高齢化といった持続可能性をめぐる諸課題に取り組む企業や団体の活動を支援していきたいと思いますし、自分自身も地域での活動など、主体的にそうした課題に対してアクションを起こしたいという想いも持っています。
安井 裕之 ディレクター